FC2ブログ

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

"Black Swan -The Impact of Highly Improbable" 

著者のNassim Nicholas Talebはレバノン出身。ウォートンでMBA、パリ大学でPhDを取得。ロンドン・ニューヨークで20年に亘りクォンツ/オプショントレーダーとして働くかたわら、不確実性について研究を重ね、現在マサチューセッツ大学アマースト校教授として不確実性科学を研究している。

【内容の紹介】
本書は著者の研究分野である「不確実性」に関する本である。タイトルのBlack Swanとは、予測外の事象、”Outlier”を表す。本書のエッセンスは、世の中は実はこうしたBlack Swan的事象で動かされている一方で、多くの人々はOutlierの発現確率が僅少でありそれが全体に与える影響は無視できるという「正規分布」的な考え方に囚われており、Black Swanを予測することもその影響を理解することもできない、ということである。

著者は、これをMediocristan(中庸国)とExtremisitan(極端国)という概念で説明する。Mediocristanに属するのは、身長・体重やサイコロ・コイン投げなど限定的な事柄であり、それらは大数の法則により、母集団が大きければ正規分布に収束する。つまり平均が最も発現確率が高く、平均から離れるほど確率は急激に減少していく。

一方、実際の世界、特に現代社会はほぼExtremistanだというのが著者の主張。たとえば個人資産額や、一人の作者の本の販売冊数など。極端なOutlier(Black Swan)が全体に大きな影響を与える。September 11や戦争などもBlack Swan的事象である。

“History does not crawl, it jumps”(歴史は這って進むのではなく、跳躍する)という文や、過去50年間の米国株式のリターンの約50%は、10日程度の極端に市場が動いた日で説明されるというデータ説明等に、この世の中が”Extremistan”だという著者の考えが表わされている。

著者によれば、人間は一般的にBlack Swanを予測・理解するように脳ができていない。人間が陥りやすい過ちとして、”Confirmation bias”(自説を支持する証拠だけを見る)、”Narrative fallacy”(実は無関係な複数の事象を原因・結果として関係付ける等、何でも「ストーリー」で説明したがること)、”illusion of understanding”(理解しているとの幻想)、”retrospective distortion”(後付けの誤った説明)等を挙げている。

著者はいわゆる専門家、特に社会科学に数学・統計的手法を適用する「えせ科学」者に対し手厳しい。これらの専門家の手法は”Ludic fallacy(or uncertainty of the nerd)”であり、不確実性をサイコロ投げ、すなわち正規分布(もしくはその類似の各種統計的分布)といったモデルで説明しようとしているとして、強く批判している。

著者によれば、現実を動かすのはこうしたモデルの前提条件の外にある”unknown unknown”(未知の未知)であって、”Platonify”(純化・定義化)されたモデルの説明は多くの場合”to be wrong with infinite precision”(極めて精密な過誤)に陥るだけだとしている。

ではいったいどうしたらいいのか。クォンツとしての著者自身は一切予測を出さないという。彼は、予測は多くの場合虚偽であるから行うべきでないと考えており、「でもそれで給料をもらっているのだから」という同僚については”get another job”(他の仕事を探すべきだ)と言っている。政府や企業の長期予測や長期計画にも極めて批判的である。

どうするべきかについて、かれは二つの示唆を書いている。ひとつは定性的な行動指針。それは、Platonifyされたモデルの外側にあるものに意識を向けること、「知らない」と言う勇気を持つ人を尊敬すること、経験と観察をベースとすること、何でも理論化・モデル化しようとする人間の本性を抑えること、”black swan”が変動の主因であることを理解し、「精密に間違う」ことより「おおよそ正しい」ことを目指すこと、そして"positive black swan"すなわち「セレンディピティ」に乗れるよう備えておくこと("luck helps the preapred mind")などである。

もう一つの示唆は、不確実性を正規分布ではなく、マンデルブロ(Mandelbrot)のフラクタル幾何学の考え方で捉えることである。

【コメント】
著者の幅広い知識と高い知性に圧倒されつつ、シニカルなウィットのきいたテンポのよい文体についつい引き込まれて読んでしまう。長年の実務経験と理論的研究の両輪を備えた著者ならではの理論には、強い説得力がある。

ノーベル受賞者のサミュエルソンもシャープも、マイロン・ショールズ/ロバート・マートンも著者にかかれば諸悪の根源扱い。オプション・トレーダーとして長年の経験を有する著者は、例のLTCM事件で後者二人のノーベル受賞者の評判がガタ落ちになる前から、こうした理論を批判し続けていたようなので、”retrospective”な批判ではないところはさすが。

人間の陥りやすい過誤については、よく整理されていてとても面白く納得して読めた。ただ、ではどうすればよいのか、の部分は私の理解力不足もあるだろうが、やや弱い気がする。著者の示唆のうち一番目の定性的行動指針については、これらを強く意識することは、安易にモデル・理論を信用しやすい我々の行動指針として確かに役には立つだろうと思う。

一方、第2の示唆のマンデルブロのフラクタル幾何となると私には理解できず。

ビジネスの世界に生きている限り、「予測」作成は避けて通れない。それは私としても企業の長期計画などばかばかしいと思うときもあるが、だからといって、計画を一切作らない・何らかの市場予測をしないという訳にいかないし、誰もが著者のように「自分が予測を出さないことを価値として評価してくれる顧客が多い」という状況になれる訳ではない。

著者のいう定性的行動指針を念頭におきつつも、どうしても予測を作成せざるを得ない一般人は一体どうしたらいいのか。著者の講演をきいて納得したはずの人々がオフィスに帰って、またぞろ同じような予測・計画作成をしていると著者は批判するが、ではどうしたらいいのかへの答えが”get another job”では答えにならないと思う。

でももし敢えて聞いたらやはりそういう答えが返ってきそうだ。ばかな質問をしたらあっさり無視される、この著者はそんな近寄りがたい存在のような気がした。

ということで答えはないが、問題提起の部分だけでも十分読む価値あり。特に予測・計画を作っている世の公務員・ビジネスマンは読んでおくべき本だと思う。

photo
The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable
Nassim Nicholas Taleb
Random House Inc (T) 2007-04-17

by G-Tools , 2008/01/06

スポンサーサイト

コメント

なかなか手強そうですね

なかなか手強そうな著者ですね。
読みもしないのに感想を言うべきでないかもl知れませんが、ちょっと論理展開に無理がある本のように感じました。
欧米人には、一つの視点からすべてを論じようとするあまり、あまり実際的でない提案をするとか途方もない偏った見解を述べるとかすることがあります。
この著者もそんなタイプなのでしょうか?


こんにちわ。

コメントありがとうございます。
著者はちょっと変わった人であることは確かです。

本人は予測を出さないことを価値として認めてくれる顧客が多い、という境地まで到達しているのでよいのでしょうが、一般的にはなかなか難しいなと思います。

著者のちょっと斜めに構えたユーモアはなかなか面白いですよ。

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://englishbynatsuno.blog62.fc2.com/tb.php/164-3349dcb7

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。