FC2ブログ

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

State of Denial (4) 

この記事は前の記事の続きです。
State of Denial(1)
State of Denial(2)
State of Denial(3)


要因② 政府機関間連携の機能不全
1)政府機関どうしの対立
この本に描かれている状況は、まるでOrganizational behaviorの典型的な失敗例のケース・スタディーのようである。各組織が、情報のコントロールに汲々としており、他機関との情報共有や連携への努力が見られない。国防省と国務省の主導権争い、ラムズフェルドとパウエルの確執(例1)。そして本来inter-agency調整の役割を担うべきNSC(当時の長官はライス)の力不足(例2)。NSC自体もCIAと、イラクにおける核兵器有無の情報判断をめぐって責任の押付け合いを繰り広げており、国防省ともうまく行っていない。例を挙げよう。

例1:ラムズフェルドとパウエルの確執
たとえばこんな状況が紹介されていた。「侵攻前のsituation roomでの大統領に対するプレゼンで、お互い相手のプレゼンのときはプレゼンを見もせずそっぽを向いている。そして相手のプレゼンに対し、質問することも互いに議論することもなく、それぞれプレゼンしっぱなしで会議は終了となる」。本来、大統領を含めてwar cabinetの当事者が議論を重ねていればいろいろな問題が浮かびあがって来て、大統領にとってもいろいろ考える材料が出てきた可能性があるが、このように首脳間での「議論」がなされない状況のまま、各種決定がなされたのである。

例2: ラムズフェルドの情報コントロール・フリークぶりとNSCとの対立。
"By the start of 2003, Miller (当時NSC のSenior Director of Defense)felt that Rumsfeld had made his job almost impossible. There was constant tension between the NSC and Rumsfeld’s Pentagon, and Rumsfeld went to extra lengths to keep control of information. "

"Sometimes there would be a handout for the president with 140 pages, and the lesser beings like Miller would be allowed to see only 40 of them. On one occasion, Rumsfled came for a meeting without enough briefing packets for all the principals, so Rice wound up looking on with the person next to her. It was all so petty." (p.108)

また、ライスNSC長官が必要な情報を得ようとラムズフェルドに電話しても返信がないことがしばしばあり、ライスが大統領に対し問題提起したところ、大統領はラムズフェルドにジョークめかして、「コンディと話さなきゃだめだよ」と言っている。
I know you won’t to talk to Condi,” Bush once teased Rumsfeld, “but you’ve got to talk to her.” The whole scene would have been comic Miller thought, if the issues hadn’t involved war, life and death. (p.110)

人事権を有する大統領がこの調子では、NSCのinter-agency調整機能がうまく働かないのも当然であろう。

2)プロジェクト管理の基本の欠如
さらに、連携の機能不全を感じさせる例として、いろいろな関係者がそれぞれイラク侵攻と戦後統治に関する「To do 項目を書き出してみた」という例がいくつも描かれている。当然それらの内容は重複しているが、そうしたto do listが関係当事者間でシェアされて議論された形跡も、それの実行状況をフォローアップする体制が作られた形跡もない。

本来、プロジェクトを推進するには、”To do “事項とその優先順位付け、誰がどの項目について責任を持ち、どういったマイルストーンで進めるかという表を、関係当事者が協働して作成し、常に表を更新し見直しながら情報を共有しつつ進めていくというのが、プロジェクト管理の基本中の基本ではないか。そのプロジェクト管理の基本がまったくなされていないのである。よって、行うべきことも、優先順位付けも、責任の所在もすべてがあいまいなままであったため、戦後統治が大混乱に陥ったのは当然といえば当然である。初歩的なプロジェクト管理について民間のコンサル会社でも入れた方がいいのではないかと思うぐらい、この本で描かれている状況はお粗末なものだった。

要因③ 大統領へ十分な情報が伝わらず、さらには大統領/政権が悪い情報や失敗を認めない姿勢。
大統領に十分な情報が伝わらない理由は以下に大別できると思う。
1)関係機関間の連携不全・対立
これは上述の要因②の通りである。

2)上が聞きたい内容のみを伝えるカルチャー
例1.戦後統治の最初の責任者であったガーナーが途中解任されて帰国した際、彼は、自分の後任Bremerが進めている3つの施策(イラク軍の解体、あまりに対象の広い脱バース党化、イラク人リーダー・グループの解散)につき、上司であるラムズフェルドに対してこれらが過ちであり、今ならまだ修正できると進言している。これに対し、ラムズフェルドは今さら後戻りはできないと答えている。

この二人のミーティングの後、続けてガーナーは、大統領・副大統領・ライスNSC長官・ラムズフェルド国防長官との会合で、イラクの状況を報告するのだが、ここでは、彼はラムズフェルドに言った3つの過ちに触れず、後任のBremerの手腕を褒めたのみである。本書著者が後日、ここで問題提起すべきだったのではとガーナーに質問したところ、彼は「自分の上司はラムズフェルドであり、自分はラムズフェルドに報告したことで責を果たした」と答えている。”I didn’t work for the president,” Garner answered. “I worked for Rumsfled. I’m a military guy.” “My view as I did my job. I told my boss in what I thought were pretty stern terms on the mistakes we’d made” (p.225)。
この状況でガーナーばかりを責めることはできない。むしろ、情報の目詰まりを起こしたのは、ラムズフェルドであると考えられる。

例2.”it deosn’t seem like you’re on our team”
例1には伏線がある。上記の例の前、まだイラクに行ったばかりの2003年3月、ガーナーがラムズフェルドにテレビ会議で、戦後統治に十分な人員を早期に確保できないとの問題点を提起した際、ラムズフェルドの答えは
“You know, it doesn’t seem like you’re on our team” Rumsfled said, according to a note taker.
この”it deosn’t seem like you’re on our team”は結構この間ワシントン各所で使われたフレーズのようで、問題提起をすると、問題提起をする人に問題があるという言われ方をする。これが、問題が上に伝わらないカルチャーの背景である。

例3."trained to be can-do people"
上述のようなカルチャーはもしかしたら軍隊で特に顕著なのかもしれない。Marks少将は、マッキナン将軍に対しDIAからの支援の必要性を提起するも、特に回答を得られなかった。これについて本書はこう記す。 “Top military officers like Marks were trained to be can-do people. Can’t was a word not to be uttered. He was in the solution business, not the whining business or the excuses business. The boss was busy and had his own problems. It was almost a principle of Army leadership (p.101)

3)ブッシュ自身の問題
こうした組織カルチャーの背景として、ブッシュ自身にも責任無しとはしないであろう。民主党上院議員Carl Levinの言葉を借りれば、彼は” intellectually lazy”である。すなわち、自分の考えに合致する情報を挙げてくる者で周囲を固め、適切な質問で情報の確度や適正さを見分けようとする努力をしない。また、別の発想や問題提起をする人と積極的に意見交換をしない。
“I’ve never thought that Bush was dumb at all,” Levin said, lightly rapping on the table for emphasis. “But I think he’s intellectually lazy and I think he wants people around him who will not challenge him but will give him the ammunition, which he needs or wants in order to achieve some more general goal.” (p.416)

その結果、政権は、誤った情報に基づいた誤った判断で侵攻を進め、つい最近まで政策を軌道修正することも、誤りを認めることもなかった。脆弱な国家の運営インフラを壊滅させたおかげでテロの温床を作りだしてしまい、死者数が月を追うごとに増加しているにも拘わらず、その状況を明確に米国民にも世界に対しても説明しない。不都合な事実には目を瞑り、好都合な情報だけを利用し好都合な情報だけを発信する。これがこの本が書きたかった”State of Denial”の実態である。

2006年5月24日、 統合参謀本部によるホワイトハウス、国務省等あての極秘報告は以下のような暗澹たる状況を報告している。
「Insurgency attackが増加していること(2003年5月は月500件未満だったのが、2006年5月には3500件を超えている)、来年も増加する懸念があること、原油産出も計画未達、大臣たちはイラク全体の利益ではなく自分の所属宗派の利益を優先し、省によっては省がテロの温床となりそうであること」(P.471)

ところが、その2日後に国防省が下院宛に提出した65ページ報告書では、報告書の半ばにテロ攻撃の増加状況を挿入してあるものの、全体としてはポジティブ・トーンで特に最初の4ページの導入は”all happy talk”である。“ Anti Iraqi forces- extremists and terrorists- continue to fail in their campaign to derail the political process….. and to foment civil war, the report said, omitting any mention of how the security picture was significantly worse.(p.476)

With all Bush’s upbeat talk and optimism, he had not told the American public the truth about what Iraq had become. (p.491)


最後に。では、ブッシュ政権が特に無能で特に組織が低機能であったのか。必ずしもそうではないだろう。いかなる組織でも、多かれ少なかれトップへの情報フローが不十分だったり、歪んだりするなどの問題が起こり得る。上記に書いた「ブッシュ自身の問題」は、人間の本性であって意識的に努力を続けない限り、誰でもこうした状況に陥り得る。

トップがすべての情報を自ら確認することは不可能である以上、要所に置く人物の選定には、念にも念を入れる必要がある。要職に必要な資質は、判断力、チームワーク力、上にチャレンジすることを恐れないこと、新たな発想の提起を自分自身にも下にも奨励することなどであると考えられる。トップ・マネジメントの役割はこうした人の選定であり、重要な情報・提案が淀みなく流れる組織の枠組みを作ることだと、本書を読んでつくづく思ったことである。

関連カテゴリー:|Politics, Economy & Business |

紹介媒体: | 洋書 | 英語iPod/英語ポッドキャスト | 英語CD | 翻訳版 | 対訳本 | 映画DVD | 映画スクリプト | → 「ブログ内検索」で同じ媒体を紹介している記事を探す 


スポンサーサイト

コメント

1 国連決議に従わない国(イラン、北朝鮮、かつてのイラク)が核兵器を持つ。それを外交の武器としようと考えれば、IAEAの査察は絶対受け入れません。これに対して国連は無力です。
米国はこの状態が続くことを何よりも恐れた。開戦時期の判断を誤り、武力に頼りすぎたのが間違いであったにしても、危険な状態を打開しようと意図したことまで、否定してはいけないのではないかと考えます。
なにやかや批判はできても、イラン、北朝鮮に対しても、結局は力の米国に頼るしか手がないのが悲しい現実ですから。

2 政権内部のゴタゴタに起因する情報の乱れは一にブッシュの責任でしょう。(他の人では責任は取れません)
 

ユリウス様

こんにちわ。コメントありがとうございます。
おっしゃる通りですね。国連が無力であった以上、米国が状況を打開しようとした意図自体は評価すべきかもしれませんね。それにおっしゃる通りイランについても北朝鮮についても、米国に頼るしかないのが現実ですし。

ただ米政権の判断がいかにあやふやな情報と情報分析に基づいていたものかについても、(今後のためにも)知っておく必要もあると思うのです。私自身は、この本を読んで初めて実態を詳しく知ったので、こんなものなのかと、ショックでした。

YN さま

>この本を読んで初めて実態を詳しく知ったので、こんなものなのかと、ショックでした。
アメリカの意思決定プロセスにも、弱点や盲点があるってことですね。
イラクのことで信頼を損ねたのは事実ですが、政権内部の問題点が我々にも見える(あなたは本によって、小生はあなたの解説で)ことは、まだ健全だとも言えます。
ロシアや中国の政権の内部は見えませんもの。

今回の4っのエントリーは、原書の読めない小生には大変ありがたかったです。
これからも期待しております。
ありがとうございました。

ユリウス様

コメントありがとうございます。
まさにおっしゃる通り、私も、このような本が戦争状態中に政権当事者のインタビューに基づいて出せること自体、米国の健全性を現すものであり、チェック&バランス機能なのだとつくづく思いました。

自分が当事者であれば、あからさまな言論弾圧ではなくとも、少なくともかん口令は出したくなるだろうと、これを読んで思いました。政権が言論の自由を制約しない国を作ることは、そんなにたやすいことではないのだと改めて感じた次第です。

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://englishbynatsuno.blog62.fc2.com/tb.php/143-18ca8f58

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。