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State of Denial (2) 

イラクへの2万2千人の増派が決定された。体制の是非はともかくイラクを国家として何とかつなぎとめていたフセイン圧政を除去し、その後失政を重ねたために、イラク内の宗派間争議というパンドラの箱を開けてしまい、中東の不安定要因を増幅させた責任が米国にはあると思われる。よって、現段階で即座に撤退というのは無責任であり、増派はやむを得ない判断であろう。

とはいえ、現在13万人のところへ2万人ばかりの増派を、しかも短期間での縮小を狙って行うというのでは、結局うまくいかないであろうと懸念される。一方で、大量の長期間派兵コミットメントはもはや米国民が許さない。当初の判断ミスが行動の選択肢を奪ってしまったということであろう。

さて、"State of Denial"関連記事の続きである。

判断ミス1:大量破壊兵器に関する情報の不確実性を正しく評価しなかったこ
要因① CIAの情報不足・分析不足と、ホワイトハウスの解釈ミス

は、関連することなので、まとめてエピソードを以下に紹介する。

驚くべきことは、91年の湾岸戦争後、米国は政治面・経済面ともイラクとの関係が断絶しており、CIA職員やDIA(Defense Intelligence Agency)職員さえほぼ皆無だった(p.101)。よってground intelligence(地上における一次情報)は皆無といって言い状態であり、情報源は、衛星写真や航空写真、そしてドイツ・英国など外国の情報機関からの(それもやや古い)情報などのtechnical intelligenceのみだったのである。

CIAは、こうした不確かな情報に基づいてイラクによる大量破壊兵器開発を疑う材料として大量の情報を提供し続けた。しかし一方で、現段階で核兵器を保有していると裏付ける確実な証拠はないと明言していたことも事実である。2002年10月7日シンシナティでの大統領演説の5日前、全情報機関の判断として「イラクは現段階で、核兵器自体も、核兵器開発に十分な材料も保有していないが、2007年から2009年頃に保有する可能性は相応にある」という情報がホワイトハウスに提供されている。”The TOP SECRET National Intelligence Estimate” said with “moderate confidence” that “Iraq does not have a nuclear weapon or sufficient material to make one but is likely to have a weapon by 2007 to 2009” (p.97)

しかし大統領は翌2003年のState of the Union addressで、”The British Government has learned that Saddam Hussein recently sought significant quantities of uranium from Africa”(p.218)と発言してしまった。この情報は2002年の10月スピーチで、CIA長官Tenetが未確認情報として削除を求めたものである。今回のスピーチはTenetのクリアランスを得ておらず、実際、この情報の信憑性を喪失させる追加情報がマスコミで報道されたことにより、この16語の発言をめぐって、後日CIAとNSCが激しく責任の押付け合いを展開する羽目になる。

なおイラク侵攻の前、国防省がCIAの情報をもとに、大量破壊兵器関連施設であることが疑われる場所として946箇所もリストアップした。実際に大量破壊兵器を探すイラク侵攻軍の"top-intelligence officer"に任命されたジェームズ・マークス少将は、当然リストアップされた箇所の確度・優先順位などの情報を求めた。ところが、まったくといっていいほど情報はないのである。国防省職員は、これ以上は実際の捜索オペレーションの分野、すなわち軍の仕事と考え、少将の質問に目を白黒させるばかりであった(p.95)。という訳でリスト上「養鶏場のように見えるが、大量破壊兵器関連施設であることが疑われる」とされていたサイトに実際に行ってみると単なる養鶏場だった、というような確認作業を、敵の攻撃を受ける中で軍は続ける羽目になったのである。

こうした探索で何も発見されなかったため、2003年、核査察の専門家で1991年の湾岸戦争後のイラク核査察でイラク核開発計画を暴いたDavid Kayが大量破壊兵器探索のヘッドとしてCIAに雇われる。彼は、リストの946箇所を一つ一つ調べていくのではなく、別の方法を採った。科学者、警備職員など大量破壊兵器開発などに関与する可能性がある人間を探し出し彼らの話しを辿っていく方法である。この結果、彼は核兵兵器そのものが存在しないのみならず、イラクの核開発計画は90年代よりむしろ後退しているとの結論に至った。

また査察の過程で、CIAがイラクによる核兵器保有可能性を判断したほぼ唯一の材料が、イラクが大量の特別仕様のアルミ管を極秘裏に輸入しようとしていたという事実であることも分かってきた。CIAはその数が60,000という大量であること、国連管理をすり抜けた極秘裏/black marketを通じた輸入であること、特別仕様であること、サダム本人が本輸入をフォローしていたことから、核開発関連と決め付けてしまい、これについて何百ページもの報告書を出した訳だが、実はこのアルミ管は単なる通常ミサイル用のものだった。なぜこれほど大量であったかというと、Kayが90年代査察から得た経験に基づけば、「サダム政権下では、入手を命ぜられたものを余分に入手するより、不足する方が重大な罪」だったからであり、なぜblack-marketを通じて過度に高性能なものを入手したかの理由は、「black-marketがサダムの息子のウダイとその仲間によって牛耳られ、彼らが儲かるようになっていた」からである。

Kayが後日大統領に説明した発言によれば、CIAの最大のミスは、イラク社会が極めて腐敗し混乱した状況に陥ってしまい、もはや組織的に大量破壊兵器を開発できるような状況になかったことを理解していなかったことであり、それは十分な”human intelligence”なしに”technical intelligence”に依存しすぎた結果である。
"Even bigger and more basic, however the CIA had not understood the utter corruption within the system and the deterioration of Iraq’s society", Kay said. "Things had gotten so bad that the regime itself was not capable of purposeful development of WMD programs." (p.279)

ただしKayが、とあるCIAスタッフから聴取したところによると、実はイラク侵攻前にCIAはイラク国外に脱出したイラク人科学者にインタビューしたり、国外にいるイラク人に金を払ってイラクに戻らせ核開発に関与した可能性のある親戚を探らせたりという超極秘オペレーションを行っていた。120人ほどインタビューした結果何も証拠が見つからなかったが、CIAは核兵器があると確信していたため、単にこの調査手法に問題があるとして調査が中止された。この調査については一切記録にも残されておらず、Kayは、この情報が、イラクへ査察に行く前のKay自身に開示されなかったことに怒ると共に、大統領にもパウエル国務長官(当時)にもライスNSC長官(当時)にも報告されたとは思われないと後日語っている。(p.273)

上記のような情報を読んでいくと、要は、CIAも大統領も皆、イラクに核兵器があるとの前提ありきで、それに適合する材料だけを追い、適合しない材料を無視していた、ということだったということがよく分かる。


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コメント

「事実」がどこまで100%に近い「事実」として、より多くの人々に伝わるか。それが、ある意味、真の近代化のように感じます。そんな事があり得るのか、それが正しいのか、と考え始めると、また違う問題になりそうですが。

とにかく、多大の人命を犠牲にしたのは「事実」で、イラクの復興に向けて、現在判明している「事実」と今後判明する「事実」がどう活かされていくのか、もう少し気持ちを入れて注目してみようか、という気になりました。
きっかけを提供して下さった、YNさんに、感謝です。

大変興味深く読ませていただきました。
ありがとうございました。

>それは十分な”human intelligence”なしに”technical intelligence”に依存しすぎた結果である
そうかもしれません。英国の秘密情報局は伝統的に"human"に強く、アメリカの"technical"は驚くべきものがあると聞いています。

"human"はスパイ活動そのもの、もしくはそれに極めて近いものであるに対して、アメリカの用いる"tchnical intelligence"は高度な情報収集活動と見なしえます。米国式は少なくとも裏切り行為を伴っていないですから、それ故小生は米国式を支持して来ましたし、今も限界があるのを承知の上で支持しています。今回のミスの反省の上に立って、今後の情報分析力に期待するしかありません。

>CIAも大統領も皆、イラクに核兵器があるとの前提ありきで、それに適合する材料だけを追い、適合しない材料を無視していた

2000年も昔、カエサルが「人間とは噂の奴隷であり、しかもそれを、自分で望ましいと思う色をつけた形で信じてしまう」と言ったのはまさにこのことでした。現代のリーダーリーダーや知識人にカエサル級の人物がいなかったということですかね?

こういう問題をわかりやすく丁寧に取り上げて下さることに、私もいつも感謝しています。

人間は何かを調べる際に、今ある情報から、ある程度の仮説を立てようとしますよね。闇雲に調べるのでは埒が明かないし、それは必要なことなのでしょう。
ですが、その仮説が「正しいであろう」という前提で物事を見ると、「適合しない材料」の重要性に気付かないわけですね。

これは全く一個人の人間においても言えることで、人と議論をする時にも、他者の意見を素直にそして冷静に聞くことのできる精神状態を保つことが必要であり、間違った場合にはその間違いを出来るだけ早く訂正し軌道修正できることも大事ですね。
最初はほんの少しのずれであっても、それがどんどんひずみを生んでいくわけですから。特に、国際問題など、多くの国と人間に関わる問題では、その選択力と決断力が問われるということなのでしょう。
科学者などの関係者から真実を探るというアプローチはとても効果的なものであったはずなのに、そのスキルをうまく生かせなかった組織にやはり問題があった、ということでしょうね。

Mayumi様

コメントありがとうございます。
「真実」に近い「実態」を国民に説明するという点では、本書を含むメディアの持つ力と責任も大きいと思います。特にこのような状況では、政権側には政権に不利な情報を実際よりよく見せようというインセンティブが働く訳ですから。

それにしても、戦争状態中に政権首脳のインタビューに基づいたこうした本が出版できるところが、まだ米国の健全なところと言えるかもしれませんね。(今回の巻執筆に際しては、大統領自身はインタビューを拒否したようですが、ラムズフェルドを含む多くの当事者がインタビューに応じています)。

ユリウス様

コメントありがとうございます。
カエサルの言は本当に名言ですね。そんなに昔のリーダーの英知を現代のリーダー達が持ち合わせていなかったのかと思うと、人間は大して進化していないのかもしれないと思ってしまいます。

human intelligenceですが、スパイ活動や戦争準備に限らず、実際に現場に足を運び人の話をきくというのは、何をやるにも大事なプロセスですよね。

今回の本を読んで驚いたのは、侵攻前もフセイン政権打倒後も米国側キーパーソンがイラクを訪問したケースがかなり限定的であることです。9/11の後真っ先にイラク侵攻を提言したウォルフォイッツ国防副長官(当時)がはじめてイラクに行ったのはようやく2003年になってからとありますし、戦後統治の失政が続く中でも、現地(の会議室)からのテレビ電話会議での報告に基づいて、重要な決断はホワイトハウスでなされる。これだけ多くの兵士を送り込むのであれば、決断の責任者は何度でも現地に足を運ぶべきだったと思うのです。

Rach様

コメントありがとうございます。

>>間違った場合にはその間違いを出来るだけ早く訂正し軌道修正できることも大事ですね。最初はほんの少しのずれであっても、それがどんどんひずみを生んでいくわけですから。

まさにおっしゃる通りで、米国のイラク政策の失敗は、自分の仮説にあう証拠しか見ようとしなかった大統領とその意向にあうような報告をしてきた他の首脳の間で、一つ一つはちょっとした情報のひずみと判断ミスが積み重ねられたことが、大きな失敗につながったと考えられます。

でも、彼らが特に愚かであったはずはなく、むしろ最も能力の高い人々だったはずなのです。どんな人間も組織もこういう誤謬から逃れられないとすれば、そもそも人を戦場に送りこむ決断をする権利を持った人間や組織というものが存在するのだろうか、とこの本を読んで考えこんでしまいました。

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情報機関情報機関(じょうほうきかん)とは、安全保障の目的で国内外の情報を収集・分析し、政府に報告することで政策立案に資する国家機関、情報収集の一環として合法・非合法の諜報活動を行う機関の総称であるが、国によってその任務や組織はさまざまである。諜報機関(ち

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